御曹司はただの同期のはずだったのに
そして、向かいのソファに座る女性。

目を奪われるほど整った顔立ち。

姿勢も、仕草も、完璧すぎる。

(……この人が)

直感で分かる。

「おまえの見合いの件だ」

社長の声が、静かに響く。

トレーを持つ手が、わずかに揺れた。

「今回の相手は、取引先の社長令嬢だ」

淡々とした説明。

「結婚すれば、我が社にとっても大きな意味を持つ」

その言葉が、現実を突きつけてくる。

政略。利益。当然のように並べられる言葉。

(……これが)

この世界。理人のいる場所。

カップを置く手が、ほんの少しだけ震える。

気づかれないように、ゆっくりと。

顔を上げると、理人と目が合った。

一瞬だけ。何も言わない。

でも、何かを言いかけているような視線。

すぐに逸らす。

「……失礼します」

それだけ言って、部屋を出る。

ドアが閉まった瞬間、息がこぼれた。
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