御曹司はただの同期のはずだったのに
廊下の空気が、妙に軽く感じる。

(……見合い)

さっきまで噂だった言葉が、現実になった。

オフィスに戻ると、まだざわつきが残っている。

「どうだった?」

「やっぱり見合い?」

軽い声が飛び交う。

私は、何も言わない。

言えない。

ただ席に座って、パソコンの画面を見つめる。

(……やっぱり)

理人は、ああいう世界の人だ。

最初から、分かっていたはずなのに。

胸の奥が、静かに痛んだ。

オフィスに戻ると、空気が完全に変わっていた。

さっきまでの静けさは消えて、あちこちでひそひそと声が交わされている。

「東條の相手、新日本スクラーレのお嬢さんだって」

「え、あの一流企業?」

「そうそう。なんでそんな深窓のお嬢様がって感じだけど」
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