消せない痕 ~甘く危うく、既婚者上司と崩れる理性~
すれ違う距離
── プロジェクト初日 ──
まだフロアには人が少なく、
会議室のガラス越しに差し込む
朝の光が、白かった。
黒崎部長は、すでに会議室にいて、
PC画面に視線を落とし、
静かにメモを取っていた。
私は会議室のドアの前で足を止め、
目を閉じ、
自分に言い聞かせる。
このプロジェクト、
必ず成功させてみせる。
ノックをすると、
低い声が返ってきた。
「どうぞ」
ドアを開けると、
朝日を背に、
光を遮るように黒崎部長が座っていた。
「おはようございます」
彼は、こちらを一瞬だけ見て、
すぐに視線を外し、
黒いペンを持った手で
少し離れた席を指した。
「そこに座って」
昨日までとは明らかに違う、
無機質な表情と声。
このプロジェクト以外のことには、
何の興味もない。
そんな空気を、まとっている。
私が指定された席に着くと、
彼はPC画面を見つめたまま、
タイピングの手を早め、
口を開いた。
「先に言っておく。
このプロジェクトは、失敗できない。
業務も厳しくなる。
無理だと感じたら、早めに言ってくれ。
その時は、他の者に回す」
仕事以外の一切を
切り捨てるような冷淡な声に、
必要以上に踏み込むなと、
はっきり線を引かれた気がした。
彼は上司として、
当然の発言をしただけなのに、
私の胸に残ったのは、
『君じゃなくてもいい』
という冷たい感覚だけだった。
……分かってる。
こんな感情は、
仕事に持ち込むべきじゃない。
「大丈夫です。
最後までやり遂げます。
外れるつもりはありません」
PC画面に向けられたままの、
温度のない彼の視線が、
微かに揺れたことに、
私は気付かなかった。
まだフロアには人が少なく、
会議室のガラス越しに差し込む
朝の光が、白かった。
黒崎部長は、すでに会議室にいて、
PC画面に視線を落とし、
静かにメモを取っていた。
私は会議室のドアの前で足を止め、
目を閉じ、
自分に言い聞かせる。
このプロジェクト、
必ず成功させてみせる。
ノックをすると、
低い声が返ってきた。
「どうぞ」
ドアを開けると、
朝日を背に、
光を遮るように黒崎部長が座っていた。
「おはようございます」
彼は、こちらを一瞬だけ見て、
すぐに視線を外し、
黒いペンを持った手で
少し離れた席を指した。
「そこに座って」
昨日までとは明らかに違う、
無機質な表情と声。
このプロジェクト以外のことには、
何の興味もない。
そんな空気を、まとっている。
私が指定された席に着くと、
彼はPC画面を見つめたまま、
タイピングの手を早め、
口を開いた。
「先に言っておく。
このプロジェクトは、失敗できない。
業務も厳しくなる。
無理だと感じたら、早めに言ってくれ。
その時は、他の者に回す」
仕事以外の一切を
切り捨てるような冷淡な声に、
必要以上に踏み込むなと、
はっきり線を引かれた気がした。
彼は上司として、
当然の発言をしただけなのに、
私の胸に残ったのは、
『君じゃなくてもいい』
という冷たい感覚だけだった。
……分かってる。
こんな感情は、
仕事に持ち込むべきじゃない。
「大丈夫です。
最後までやり遂げます。
外れるつもりはありません」
PC画面に向けられたままの、
温度のない彼の視線が、
微かに揺れたことに、
私は気付かなかった。