消せない痕 ~甘く危うく、既婚者上司と崩れる理性~
── 数日後 夜 ──
プロジェクト初動は多忙で、
残業が連日続いていた。
彼は一貫して、
温度のない声で事務的に指示を出す。
「次の資料、
10分以内にまとめて」
「分かりました」
私も指示通り、
機械的にこなしていく。
「出来ました。
確認をお願いします」
私が近付くと、
彼は、わずかに身を引いた。
「次、これ確認して」
「……はい」
返す声が、
自分でも驚くほど弱かった。
無機質なタイピング音と、
空調音だけが響く
深夜のフロア。
ふたりの間を流れる空気は、
ずっと、冷たかった。
── 更に数日後 ──
相変わらず冷たい空気のまま、
ふたりのプロジェクトは続いていた。
ここ数日、
出社する足取りが重かった。
黒崎部長は、
転勤してきて間もない私より、
本当はもっと優秀な人と
組みたかったのではないか。
私では力不足で、
彼を苛立たせているのではないか。
そんな不安ばかりが先に立ち、
自信を持てずにいた。
社のロビーに着くと、
総務の案内係の女性と目が合い、
会釈を交わす。
ふと、
転勤初日の彼の姿が思い出された。
言葉は淡々としていたが、
声は柔らかく、
鋭い目元も、
目が合うと僅かに温かさを帯びていた。
エレベーターが、
到着のベルを鳴らす。
廊下に出た瞬間、
ため息が漏れた。
このまま、
黒崎部長と組んでいていいのかな……。
ふと、
プロジェクト初日に
彼が言った言葉が頭をよぎる。
「無理だと感じたら、早めに言ってくれ。
その時は、他の者に回す」
このプロジェクトから外れてほしくて、
わざとあんなことを言ったのかもしれない。
もし、私が外れたら……
また、優しい黒崎部長に
戻るのかもしれない。
「おーい!」
不意にかけられた背後からの声に、
はっとした。
「何ボーッとしてるんだよ?
エレベーター前で突っ立ってたら、邪魔だろ」
声の主は
──森下拓海。
同じ部で同期の男性だ。
「あっ、ごめん。
ちょっと考え事してた」
慌ててエレベーター前から退こうとすると、
腕をつかまれ、引っ張られた。
「えっ……、ちょっと何、森下さん?」
プロジェクト初動は多忙で、
残業が連日続いていた。
彼は一貫して、
温度のない声で事務的に指示を出す。
「次の資料、
10分以内にまとめて」
「分かりました」
私も指示通り、
機械的にこなしていく。
「出来ました。
確認をお願いします」
私が近付くと、
彼は、わずかに身を引いた。
「次、これ確認して」
「……はい」
返す声が、
自分でも驚くほど弱かった。
無機質なタイピング音と、
空調音だけが響く
深夜のフロア。
ふたりの間を流れる空気は、
ずっと、冷たかった。
── 更に数日後 ──
相変わらず冷たい空気のまま、
ふたりのプロジェクトは続いていた。
ここ数日、
出社する足取りが重かった。
黒崎部長は、
転勤してきて間もない私より、
本当はもっと優秀な人と
組みたかったのではないか。
私では力不足で、
彼を苛立たせているのではないか。
そんな不安ばかりが先に立ち、
自信を持てずにいた。
社のロビーに着くと、
総務の案内係の女性と目が合い、
会釈を交わす。
ふと、
転勤初日の彼の姿が思い出された。
言葉は淡々としていたが、
声は柔らかく、
鋭い目元も、
目が合うと僅かに温かさを帯びていた。
エレベーターが、
到着のベルを鳴らす。
廊下に出た瞬間、
ため息が漏れた。
このまま、
黒崎部長と組んでいていいのかな……。
ふと、
プロジェクト初日に
彼が言った言葉が頭をよぎる。
「無理だと感じたら、早めに言ってくれ。
その時は、他の者に回す」
このプロジェクトから外れてほしくて、
わざとあんなことを言ったのかもしれない。
もし、私が外れたら……
また、優しい黒崎部長に
戻るのかもしれない。
「おーい!」
不意にかけられた背後からの声に、
はっとした。
「何ボーッとしてるんだよ?
エレベーター前で突っ立ってたら、邪魔だろ」
声の主は
──森下拓海。
同じ部で同期の男性だ。
「あっ、ごめん。
ちょっと考え事してた」
慌ててエレベーター前から退こうとすると、
腕をつかまれ、引っ張られた。
「えっ……、ちょっと何、森下さん?」