消せない痕 ~甘く危うく、既婚者上司と崩れる理性~
廊下の隅に着くと、
彼はわずかに眉を寄せる。
「大丈夫か? 顔色……悪いぞ」
覗き込む顔には、
心配の色が滲んでいた。
「……大丈夫。ありがとう」
彼はつかんでいた手を、そっと離した。
壁に背を預けて腕を組むと、
気遣うようにちらりとこちらを見る。
そして、口を開いた。
「あの……あれか?
黒崎部長とのプロジェクト。
あれ……やっぱりきつい?」
不意に彼の名前が出て、
心臓が跳ねる。
「大丈夫だよ。
仕事は確かにきついけど……
でも、黒崎部長の指示は的確だし、
プロジェクト自体は順調に進んでるし……」
なるべく明るく振る舞ったけれど、
言葉に詰まってしまった。
「進んでるし?……何?」
彼は、
言葉の続きを促してくる。
「進んでる……けど……」
同期で同い年という立場の彼に、
少し、気が緩んだのかもしれない。
「私で良かったのかな……。
黒崎部長は、もっと頼れる優秀な人と、
このプロジェクトを
成功させたかったんじゃないかな……って」
彼は壁にもたれかかったまま、
少し呆れたような顔をした。
「何だ、そんなことかよ。
白石さん、ちゃんと評価されてるって。
じゃなきゃあんな大役任されないだろ?
胸張れよ」
本部長に認められても、
黒崎部長に認められなければ、
意味はない。
「でも……
黒崎部長は、違う……かも」
自然と、
俯いてしまった。
彼は人差し指の関節を軽く唇に当て、
私を見た。
「……確かにさ、
黒崎部長、白石さんにはちょっと厳しいよな。
でもあれってさ、
一緒に成功させたいって思ってるからじゃね?」
その言葉に、
私はわずかな希望を見つけたように顔を上げた。
彼は、やっと元気になったなとでも言いたげに、
口元を緩め、
腕を組んだまま、私の目線まで腰を折る。
「堂々としてろって!
人の目なんか気にすんな」
それから、
少し照れたように言葉を続けた。
「まぁ……
何かあったら相談乗るし、いつでも」
「それに、俺も相談乗ってもらうかもだし!」
そう言って、
照れ隠しみたいにニッと笑った。
明るい彼に励まされ、
張りつめていた肩の力がふっと抜け、
気づけば、笑っていた。
「ありがとう、森下さん」
彼は少し頬を赤らめ、
私の背中を押すように、ぽんっと軽く叩く。
「ほら、行こう!」
「うん」
踏み出そうとした、その時――
足が止まった。
「遅れるぞ!」
「……あっ、うん」
私は慌てて、彼の背を追った。
彼はわずかに眉を寄せる。
「大丈夫か? 顔色……悪いぞ」
覗き込む顔には、
心配の色が滲んでいた。
「……大丈夫。ありがとう」
彼はつかんでいた手を、そっと離した。
壁に背を預けて腕を組むと、
気遣うようにちらりとこちらを見る。
そして、口を開いた。
「あの……あれか?
黒崎部長とのプロジェクト。
あれ……やっぱりきつい?」
不意に彼の名前が出て、
心臓が跳ねる。
「大丈夫だよ。
仕事は確かにきついけど……
でも、黒崎部長の指示は的確だし、
プロジェクト自体は順調に進んでるし……」
なるべく明るく振る舞ったけれど、
言葉に詰まってしまった。
「進んでるし?……何?」
彼は、
言葉の続きを促してくる。
「進んでる……けど……」
同期で同い年という立場の彼に、
少し、気が緩んだのかもしれない。
「私で良かったのかな……。
黒崎部長は、もっと頼れる優秀な人と、
このプロジェクトを
成功させたかったんじゃないかな……って」
彼は壁にもたれかかったまま、
少し呆れたような顔をした。
「何だ、そんなことかよ。
白石さん、ちゃんと評価されてるって。
じゃなきゃあんな大役任されないだろ?
胸張れよ」
本部長に認められても、
黒崎部長に認められなければ、
意味はない。
「でも……
黒崎部長は、違う……かも」
自然と、
俯いてしまった。
彼は人差し指の関節を軽く唇に当て、
私を見た。
「……確かにさ、
黒崎部長、白石さんにはちょっと厳しいよな。
でもあれってさ、
一緒に成功させたいって思ってるからじゃね?」
その言葉に、
私はわずかな希望を見つけたように顔を上げた。
彼は、やっと元気になったなとでも言いたげに、
口元を緩め、
腕を組んだまま、私の目線まで腰を折る。
「堂々としてろって!
人の目なんか気にすんな」
それから、
少し照れたように言葉を続けた。
「まぁ……
何かあったら相談乗るし、いつでも」
「それに、俺も相談乗ってもらうかもだし!」
そう言って、
照れ隠しみたいにニッと笑った。
明るい彼に励まされ、
張りつめていた肩の力がふっと抜け、
気づけば、笑っていた。
「ありがとう、森下さん」
彼は少し頬を赤らめ、
私の背中を押すように、ぽんっと軽く叩く。
「ほら、行こう!」
「うん」
踏み出そうとした、その時――
足が止まった。
「遅れるぞ!」
「……あっ、うん」
私は慌てて、彼の背を追った。