消せない痕 ~甘く危うく、既婚者上司と崩れる理性~
嫉妬の余熱
── 同じ頃 社内 ──

会議資料をテーブルに広げながら、
私は森下さんに確認を取っていた。

黒崎部長の冷たい態度に心が折れかけていた私を、
明るく励ましてくれた人。

その親しみやすさと、
同期で同い年という共通点もあって、
気づけば自然に打ち解けていた。

彼の担当箇所と、
私の資料が微妙に噛み合っておらず、
急きょ、すり合わせが必要になった。

「……ここの数値、
このままだと整合取れないよね?」

私が指摘箇所を示すと、
彼は椅子を少し引き寄せ、
テーブルに身を乗り出すようにして資料を覗き込んだ。

さらりと前髪が視界にかかり、
彼は眉をひそめながら数値を追う。

「うわ、悪い!」

「どうしたの?」

「……ここ、俺の修正が遅れててさ。
さっき更新したバージョン、渡しそびれてたわ……」

気まずそうに顔を上げ、
彼は小さく手を合わせた。

大人の男性なのに、
その仕草がどこか幼く見えて、
思わず、くすりと笑ってしまう。

彼の無邪気さには、
私を安心させる不思議な力があるみたい。

「大丈夫だよ。
今もらえたら、すぐ合わせるから」

「助かる~。
ほんと白石さん、仕事早いよな」

彼は、いつもの砕けた笑顔を見せた。

資料を受け取り、ペンを走らせていると、
彼は椅子の背もたれに身を預け、
ぽつりと声を落とした。

「……黒崎部長とは、どう?
相変わらず、厳しい?」

その名前に、
持っていたペンの動きが止まる。
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