消せない痕 ~甘く危うく、既婚者上司と崩れる理性~
昨夜の残業――
胸元に回された黒崎部長の腕。
背後から落ちてきた、
低く、甘い声。
今朝の、
熱を含んだ視線。
その全てが瞬時に蘇り、
私はそれを振り払うように
ペンを走らせながら答えた。
「……うん、大丈夫。
心配かけて、ごめんね」
彼は背もたれから身を起こし、
机に頬杖をついて、私の顔を覗き込んでくる。
「……本当か?
無理してない?
白石さん、頑張りすぎるとこあるからさ」
そんな彼の優しさは、素直に嬉しくて、
救われるような気持ちになった。
「ありがとう。ほんとに大丈夫。
ちゃんと仕事の話はできてるし――」
言い終える前に、
彼のネクタイの歪みが目に留まった。
「これから顧客回りじゃないの?
ネクタイ、少し歪んでる」
私は、自分の首元を
軽く指差して微笑んだ。
「そう?……じゃあ」
彼は片方の口元だけを悪戯っぽく上げ、
わざとらしく顎を上げた。
「直してよ。俺のネクタイ。
自分じゃよく見えないしさ。
心配かけた罪滅ぼしさせてやるよ、ほらっ」
くいっと差し出された距離に、
一瞬、戸惑う。
「もう……森下さんって、
時々ほんと、子供みたい」
苦笑しながら、
私はそっと彼のネクタイに触れ、
歪みを整えた。
── プロジェクト打ち合わせ 五分前 ──
プロジェクトの資料を確認しながら歩いていた俺は、
会議室のドアノブに掛けた手を止めた。
「直してよ。俺のネクタイ――」
この声…… 森下か。
ドアノブを握る指先に、力がこもる。
「もう……森下さんって、
時々ほんと、子供みたい」
彼女の、その言葉に、
指先が勝手にドアを押し開けていた。
胸元に回された黒崎部長の腕。
背後から落ちてきた、
低く、甘い声。
今朝の、
熱を含んだ視線。
その全てが瞬時に蘇り、
私はそれを振り払うように
ペンを走らせながら答えた。
「……うん、大丈夫。
心配かけて、ごめんね」
彼は背もたれから身を起こし、
机に頬杖をついて、私の顔を覗き込んでくる。
「……本当か?
無理してない?
白石さん、頑張りすぎるとこあるからさ」
そんな彼の優しさは、素直に嬉しくて、
救われるような気持ちになった。
「ありがとう。ほんとに大丈夫。
ちゃんと仕事の話はできてるし――」
言い終える前に、
彼のネクタイの歪みが目に留まった。
「これから顧客回りじゃないの?
ネクタイ、少し歪んでる」
私は、自分の首元を
軽く指差して微笑んだ。
「そう?……じゃあ」
彼は片方の口元だけを悪戯っぽく上げ、
わざとらしく顎を上げた。
「直してよ。俺のネクタイ。
自分じゃよく見えないしさ。
心配かけた罪滅ぼしさせてやるよ、ほらっ」
くいっと差し出された距離に、
一瞬、戸惑う。
「もう……森下さんって、
時々ほんと、子供みたい」
苦笑しながら、
私はそっと彼のネクタイに触れ、
歪みを整えた。
── プロジェクト打ち合わせ 五分前 ──
プロジェクトの資料を確認しながら歩いていた俺は、
会議室のドアノブに掛けた手を止めた。
「直してよ。俺のネクタイ――」
この声…… 森下か。
ドアノブを握る指先に、力がこもる。
「もう……森下さんって、
時々ほんと、子供みたい」
彼女の、その言葉に、
指先が勝手にドアを押し開けていた。