消せない痕 ~甘く危うく、既婚者上司と崩れる理性~
揺れる心
── 午前 ──
出社すると、
オフィスはいつも通りの音に満ちていた。
キーボードを叩く乾いた音。
コピー機の低い唸り。
そのざわめきの中に、黒崎部長の声が混ざる。
「要点はそのままでいい。
数値だけ修正。午後までに出し直し」
視線は資料と部下たちに向けられ、
感情を挟まない、淡々とした指示。
資料を受け取る仕草も、
声のトーンも、
何ひとつ、昨日までと変わらない。
出社してから、
彼と一度も目が合っていない。
……避けられているのだろうか。
握りしめた資料の端が、
指先の力でわずかに歪む。
彼にとって昨夜は、
朝が来た時点で、もう存在していない夜。
そう扱われているように見えた。
いつもと変わらない風景が、
胸の奥に、鋭い痛みを落とした。
……仕事。
そう……今は仕事に集中しよう。
そう自分に言い聞かせ、
キーボードへ視線を落とした、その時。
背後から近づく足音が、
私のすぐ後ろで止まった。
「白石さん、忙しいところ悪い。
今、いい?」
頭上から降ってきた聞き慣れた低い声に、
心臓が大きく跳ねる。
振り向いて見上げると、
そこにはいつも通りの、
けれど昨夜、触れ合ったはずの彼が立っていた。
出社すると、
オフィスはいつも通りの音に満ちていた。
キーボードを叩く乾いた音。
コピー機の低い唸り。
そのざわめきの中に、黒崎部長の声が混ざる。
「要点はそのままでいい。
数値だけ修正。午後までに出し直し」
視線は資料と部下たちに向けられ、
感情を挟まない、淡々とした指示。
資料を受け取る仕草も、
声のトーンも、
何ひとつ、昨日までと変わらない。
出社してから、
彼と一度も目が合っていない。
……避けられているのだろうか。
握りしめた資料の端が、
指先の力でわずかに歪む。
彼にとって昨夜は、
朝が来た時点で、もう存在していない夜。
そう扱われているように見えた。
いつもと変わらない風景が、
胸の奥に、鋭い痛みを落とした。
……仕事。
そう……今は仕事に集中しよう。
そう自分に言い聞かせ、
キーボードへ視線を落とした、その時。
背後から近づく足音が、
私のすぐ後ろで止まった。
「白石さん、忙しいところ悪い。
今、いい?」
頭上から降ってきた聞き慣れた低い声に、
心臓が大きく跳ねる。
振り向いて見上げると、
そこにはいつも通りの、
けれど昨夜、触れ合ったはずの彼が立っていた。