消せない痕 ~甘く危うく、既婚者上司と崩れる理性~
微かな綻び
── 転勤 四日目 午後 ──

冷たい空調の音だけが、淡々と流れていた。

誰もいない会議室は、やけに広く感じる。

ランチを早めに切り上げたのは、
準備のためだった。

……なのに。

ひとりでいると落ち着くどころか、
緊張だけが膨らみ、手がかすかに震えていた。

転勤して二日目に、
黒崎部長から、
プレゼン会議への参加を告げられた。

それから二日。

任された担当部分は、想像以上に多い。

皆が戻って来る前に、
もう一度資料の確認を……。

そう思ったのと同時に、ドアの開閉音がした。

規則正しい足音に振り返ると、
黒崎部長が、
いつもの落ち着いた表情で入ってくる。

「もう居るのか、早いな。
昨日の数字修正版、早速反映してくれたんだな。
早くて助かるよ」

スーツの上着を脱ぎながら、
わずかに目元が緩んだ。

その落ち着いた低い声が、
まるで耳の内側まで染み込んでくるようで、
胸が温かくなり、そして苦しくなった。

些細な仕事上の会話なのに、心が揺れる。

その理由は、考えないようにした。


── 会議後 ──

他の社員は、午後の外出準備で席を立ち、
会議室に、私と黒崎部長だけが残っていた。

PC画面を閉じようとしたとき、
ふと違和感を見つけた。

「黒崎部長、見てもらえませんか?」

画面を指すと、
彼は一緒に覗き込む形で、私の横に立つ。

「ここの数字、少しおかしいと思います」

そう言った瞬間、
彼はさらに身をかがめ、
私の指先の位置を確認しようと、
画面へ近づいた。

そのとき――


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