消せない痕 ~甘く危うく、既婚者上司と崩れる理性~
西島は少しだけ間を置き、
それ以上は踏み込まず、俺の肩を叩いた。

「……そっか。また明日な」

​友の背中を見送り、小さく息を吐く。

誰かと笑って誤魔化せる気分じゃなかった。

重い足取りのまま、
気づけば、海沿いの遊歩道まで来ていた。

観覧車の光が水面に滲んでいる。
夜でも人の気配が消えない場所。

水面に近い階段に腰を下ろすと、
夜風がネクタイを揺らし、潮の匂いが胸の奥まで入り込む。

「……また、白石さんの隣にいたのは黒崎部長か」

呟いて、視線を落とした。

「あの雨の日も……」

突然の豪雨に見舞われた、あの夜。

もしあの時、俺がもっと頼れる男だったら。

小さな折り畳み傘じゃなくて、
彼女を濡らさずに送り届けられる
「何か」を持っていたら――

「……車には、勝てねぇか」

小さく自嘲が漏れる。

仕事のパートナーだと分かってる。

けれど、二人の距離を思うたび、
嫉妬なのか焦りなのか、
抑えきれない感情が胸の奥でうねる。

カチリ、とプルタブを開ける音が夜の静寂に弾けた。

ビールを一口流し込み、空を見上げる。

胸が焼けるほど彼女に焦がれる自分に、
もう、とっくに気づいている。

その瞬間、ふと脳裏をよぎったのは、
トラブル対応の最中に自然に並び立つふたりの姿だった。

​あの距離……まるで――



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