消せない痕 ~甘く危うく、既婚者上司と崩れる理性~
弾んだ声が、静かなフロアの空気を一変させた。
近くで資料を整理していた女性社員が、
目を輝かせて身を乗り出している。
「え、ちょっと待って待って!
白石さんが高嶺の花って……
もしかして森下さん、告白でもしたんですか?」
西島は慌てて席を立ち、低い声で制する。
「おい、声デカいって!」
言った本人もはっとしたように口元を押さえる。
「あ……ごめん。図星なんだ……。
声、大きかった?」
遅かった。
その声は、すでに弾み始めたフロアのざわめきに、
簡単にかき消された。
一度放たれた好奇心の矢は、
瞬く間に場の空気を変えていく。
「え、マジで?」
「森下、やるじゃん」
「うそ!森下さんと白石さん、付き合うの?」
「この部署でカップル?」
誰かが声を潜め、
誰かが椅子を回して身を乗り出す。
面白がった笑いが、あちこちで弾ける。
気づけば噂は、フロアの端から端へと転がって
波紋のように広がっていく。
もう、隠しきれない――
観念したように椅子の背もたれに身を預けると、
真っ直ぐに顔を上げた。
「ああ、そうだよ」
場を包んでいた笑いが、ふっと弱まる。
「俺は白石さんが好きだ。逃げも隠もしない。
真剣に告白した。大切にしたいと思ってる」
その真っ直ぐな宣言は、
はやし立てる空気さえも真っ向から押し返した。
「今は、返事待ちだ」
一瞬の静寂のあと、
フロアはさらに大きなざわめきに包まれた。
── 私は、その輪の少し外で。
向けられる視線が触れるたび、
逃げ場が、音もなく塞がれていく。
やがて話題は別の案件へ流れ、
フロアは何事もなかったように動き出す。
── ただ一人を除いて。
黒崎部長は、
少し離れた席で資料に目を落としていた。
「森下が、白石さんに――」
「言ったって――」
「マジで?」
断片的な囁きが、途切れ途切れに耳に入る。
その瞬間――
資料をめくる手が、ぴたりと止まった。
一瞬だけ、鋭く視線が揺れる。
次の瞬間には何事もなかったように、
静かにページをめくる。
乾いた紙の音だけが、無機質に響いた。
近くで資料を整理していた女性社員が、
目を輝かせて身を乗り出している。
「え、ちょっと待って待って!
白石さんが高嶺の花って……
もしかして森下さん、告白でもしたんですか?」
西島は慌てて席を立ち、低い声で制する。
「おい、声デカいって!」
言った本人もはっとしたように口元を押さえる。
「あ……ごめん。図星なんだ……。
声、大きかった?」
遅かった。
その声は、すでに弾み始めたフロアのざわめきに、
簡単にかき消された。
一度放たれた好奇心の矢は、
瞬く間に場の空気を変えていく。
「え、マジで?」
「森下、やるじゃん」
「うそ!森下さんと白石さん、付き合うの?」
「この部署でカップル?」
誰かが声を潜め、
誰かが椅子を回して身を乗り出す。
面白がった笑いが、あちこちで弾ける。
気づけば噂は、フロアの端から端へと転がって
波紋のように広がっていく。
もう、隠しきれない――
観念したように椅子の背もたれに身を預けると、
真っ直ぐに顔を上げた。
「ああ、そうだよ」
場を包んでいた笑いが、ふっと弱まる。
「俺は白石さんが好きだ。逃げも隠もしない。
真剣に告白した。大切にしたいと思ってる」
その真っ直ぐな宣言は、
はやし立てる空気さえも真っ向から押し返した。
「今は、返事待ちだ」
一瞬の静寂のあと、
フロアはさらに大きなざわめきに包まれた。
── 私は、その輪の少し外で。
向けられる視線が触れるたび、
逃げ場が、音もなく塞がれていく。
やがて話題は別の案件へ流れ、
フロアは何事もなかったように動き出す。
── ただ一人を除いて。
黒崎部長は、
少し離れた席で資料に目を落としていた。
「森下が、白石さんに――」
「言ったって――」
「マジで?」
断片的な囁きが、途切れ途切れに耳に入る。
その瞬間――
資料をめくる手が、ぴたりと止まった。
一瞬だけ、鋭く視線が揺れる。
次の瞬間には何事もなかったように、
静かにページをめくる。
乾いた紙の音だけが、無機質に響いた。