消せない痕 ~甘く危うく、既婚者上司と崩れる理性~
堕ちていく夜
玄関のドアが閉まり、カチリと背後で施錠音が鳴る。
その直後、強引に手を絡め取られた。

寝室へと私を引く彼の背中に、いつもの余裕はない。

ドアが弾かれるように開かれ、
そのまま暗い闇へと引き込まれる。

ベッドの前で、彼が足を止めた。

振り向いた彼の呼吸はわずかに乱れ、
瞳には、暗い渇望が宿っている。

肩を引き寄せられ、唇を奪われた。

​重なり合ったまま、
彼の指先が、急ぐように衣服をほどいていく。

布の擦れる音に、衣服が落ちる乾いた音が重なる。

静けささえ塗り潰すように、
唇が触れ合う湿った水音が滲む。

抗えない熱に溶かされ、思考が侵されていく。

逃げ出す隙など与えられないまま、
気づけばベッドへ押し倒されていた。

彼は、私を見下ろし、深く、ゆっくり息を吐く。

「そうだ……そのまま、俺を見てろ」

私を映す彼の瞳に、
目を逸らすことのできない甘い毒を含んだ熱が滾っている。

「誰に抱かれるのかを……ちゃんと……」

吸い付くような指先が、私の指を深く絡め取る。
それは、ほどけることを許さない力だった。

「……好きだ、由依」

掠れた吐息とともに、
壊れそうなほど切なく響くその声は、
正しい道を奪う鎖のようだ。

なのに――
心がほどけていく。



☆本作品をお読み頂き、ありがとうございます。
この物語は、エブリスタ で先行公開しております。
エブリスタではスター特典にて、
『本編「堕ちていく夜」~黒崎修司side~』を公開中です。

< 61 / 66 >

この作品をシェア

pagetop