消せない痕 ~甘く危うく、既婚者上司と崩れる理性~
── 9時30分 ──
朝食の片付けを終え、洗濯機の前に立つ。
ランドリーバスケットの中には、
昨夜、夫が着ていたシャツが無造作に放り込まれていた。
何気なく手に取った瞬間、
肺の奥が焼けるような感覚に、呼吸が止まる。
微かに漂う、覚えのある匂い。
洗剤でも、香水でもない。
あの雨の日と同じ――
皮膚の熱を帯びたような、微かな甘い匂い。
「……考えすぎ、よね」
打ち消したはずなのに、
一度こびりついた記憶は、簡単には落とせない。
そのとき――
白地の胸元に、場違いな淡い色が滲んでいるのが目に入った。
薄い、ベージュの染み。
「……なに、これ」
指先で触れたその色は、白い布の上でひどく浮いて見える。
――ファンデーション。
それは小さな泡のように心の水面に現れ、
瞬く間にどろりとした不安へと形を変えていく。
誰かとぶつかっただけかもしれない。
具合の悪い人に、肩を貸してあげたかもしれない。
あの人の性格なら、
困っている人を放っておけないはず。
そんなこと、いくらでもある……。
「……そうよ」
それでも、一度生まれた疑念は、
形を変えながら、何度でも水面に浮かぶ。
そして、消えない。
震える指先を隠すようにシャツを丸め、
冷たい機械の中に放り込み、蓋を閉めた。
激しく回り始めた水の中に、
この醜い違和感ごと、すべてを沈めるように。
「……そんなことだって、あるわ」
激しい水音に掻き消された呟きは、
自分の耳にさえ、届くことはなかった。
朝食の片付けを終え、洗濯機の前に立つ。
ランドリーバスケットの中には、
昨夜、夫が着ていたシャツが無造作に放り込まれていた。
何気なく手に取った瞬間、
肺の奥が焼けるような感覚に、呼吸が止まる。
微かに漂う、覚えのある匂い。
洗剤でも、香水でもない。
あの雨の日と同じ――
皮膚の熱を帯びたような、微かな甘い匂い。
「……考えすぎ、よね」
打ち消したはずなのに、
一度こびりついた記憶は、簡単には落とせない。
そのとき――
白地の胸元に、場違いな淡い色が滲んでいるのが目に入った。
薄い、ベージュの染み。
「……なに、これ」
指先で触れたその色は、白い布の上でひどく浮いて見える。
――ファンデーション。
それは小さな泡のように心の水面に現れ、
瞬く間にどろりとした不安へと形を変えていく。
誰かとぶつかっただけかもしれない。
具合の悪い人に、肩を貸してあげたかもしれない。
あの人の性格なら、
困っている人を放っておけないはず。
そんなこと、いくらでもある……。
「……そうよ」
それでも、一度生まれた疑念は、
形を変えながら、何度でも水面に浮かぶ。
そして、消えない。
震える指先を隠すようにシャツを丸め、
冷たい機械の中に放り込み、蓋を閉めた。
激しく回り始めた水の中に、
この醜い違和感ごと、すべてを沈めるように。
「……そんなことだって、あるわ」
激しい水音に掻き消された呟きは、
自分の耳にさえ、届くことはなかった。