消せない痕 ~甘く危うく、既婚者上司と崩れる理性~
── 12時40分 ──

家事が一段落し、動かしていた手を止めた途端、
押し殺していた不安が溢れ出し、スマホを手に取った。

液晶から放たれる無機質な光が、
真美の微かに震える指先を照らし出す。

朝からずっと胸の奥に居座っている、あの不快なしこりは、
時間が経っても、考えないようにしても、
まだ、くすぶり続けている。

誰かに相談したいわけじゃない。
ましてや、夫を疑うような惨めな告白をしたいわけでもない。

ただ、いつも通り、普通の会話がしたかっただけ。

学生時代からの友人の名前をタップする。

画面に並ぶ他愛ないやり取りに、
強張っていた指先がふっと緩んだ。

でも、入力欄に指を置くと、鉛のように重くなる。

《ねぇ、夫の様子がちょっと変で……。
別に、大したことじゃないんだけどね》

既読は、驚くほどすぐに付いた。

《え、何それ。浮気じゃないよね?》

冗談まじりの軽い文面が届く。

その文字を見た瞬間、
全身の血が、すっと引いていく感覚に襲われた。

自分の心臓が早鐘を打つ音だけが、大きく耳に響く。

……そんなわけ、ない。

否定したいのに、指が凍りついたように動かず、
返信する言葉も、浮かんでこない。

続けて届くメッセージが、追い打ちをかける。

《ファンデついてた、とか?帰り遅かった、とか?》
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