消せない痕 ~甘く危うく、既婚者上司と崩れる理性~
淡いベージュのワンピースに、控えめなメイク。

手には、差し入れのサンドイッチと、
夫の部署への菓子折り。

どこから見ても、献身的な部長夫人の姿。

受付の前に立ち、少しだけ緊張した笑顔で、
夫へ連絡してもらうようお願いする。

「真美さん?」

背後からかけられた声に、肩が跳ねた。

振り向くと、そこには元同僚の女性が立っていた。

「やっぱり!久しぶりね!」

見知った顔に、張り詰めていた糸がふっと緩む。

「久しぶり……。ちょっと近くに用があって、
ついでに寄ってみたの」

彼女は、わざとらしく背筋を伸ばし、
くすっと笑いながら頭を下げる。

「黒崎部長には、いつもお世話になっております」

こちらもつられて、同じ調子でお辞儀を返した。

「こちらこそ、いつもお世話になっております」

視線が合い、ふたりで小さく笑い合う。

彼女は受付の女性に向かって軽く手を挙げた。

「私が案内するわ。彼女とは知り合いなの」

そう言って、
自然な流れで案内役を買って出てくれた。

昔話や近況を交わしながら、
並んでエレベーター前へ向かう。

エレベーターに乗り込むと、
密室の静けさが、真美の焦燥をじりじりと煽る。

平静を装い、喉の奥から声を絞り出した。

「最近、夫の帰りが遅くて。……体が心配なの」

「そうよね。大事なプロジェクト、山場だもの」

「そうなの。……ちゃんと休めてるのかしら」

「黒崎部長もだけど、
一緒に組んでる部下の女の子も大変そうよね。
ほら、いつも遅くまで二人きりで残業してるでしょ?」
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