狼上司が執着するのは
「葉山さん、恩着せがましいことを言ってもいいですか」


帰り支度をしてバッグを持つと、藤浪に話しかけられた。
なんだろう、助けてやったんだから残業しろとかだったら狂犬に豹変するけど。


「なんですか」

「飲みに行きませんか」

「飲み?今から?私と!?」

「はい、いい店を知ってるので都合がよろしければ」


バッグの持ち手をぎゅっと握って次の言葉に備えたけど、突拍子のないことを言われて力が抜けた。
どういう風の拭き回しだろう。とりあえずふざけて様子を見るか。


「それってサシ飲みですか!?ウッソでしょどうしたんですか急に!」

「“今日は1人飲みするんだ”って言ってたじゃないですか。いい立ち飲み屋見つけた、とも言ってましたね」


うっ、昼休みにアシスタント同士で話してた内容聞かれてる。
元々飲み行く予定なの知られてるなら断りにくい。


「その立ち飲み屋でもいいですよ。奢ります」

「くっ……」

「ちなみに私のおすすめの店は駅前の路地裏にある焼き鳥屋です」

「駅前?焼き鳥屋なんてありましたっけ」

「ありますよ。コンビニ裏の路地です」

「なにそれ隠れ家ってこと?行きたい……!」

「決まりですね」


仕事中は口論ばかりの私と飲みに行って楽しいはずない。
しかし藤浪がやけに乗り気に隠れ家居酒屋を紹介してくるから断り切れなくなった。

まあいい、楽観的に行こう。
私は飲めば私は笑い上戸になって喋り倒すから。
相手がどんな寡黙だろうと勝手にしゃべり続けるから問題ない。

藤浪おすすめの焼き鳥屋はオフィスから徒歩10分。
駅前のコンビニ近くの路地裏にこっそりと店を構えていた。
これまで素通りしてたけど本当にこんな所に居酒屋あったんだ。
焼き鳥はお酒が進んじゃうな。


「それでですね、琴梨ちゃんは彼氏がいるんですって。だからいくらかわいくても課長が手を出しちゃだめですよ」


案の定1時間で出来上がった私は、課長相手にマシンガントークを繰り広げていた。
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