狼上司が執着するのは
「それに葉山さんは頑張っていますよ。彼女は狂犬でも飼い犬ですから、間違いを起こさなければ主人には噛みつきません」


さらに信じられないことに褒められてしまった。
藤浪に褒められるのは初めてだ。
嬉しいはずなのに、彼にすら狂犬というあだ名が浸透していることを知って複雑な気持ちになった。

褒めてるのか貶してるのかよく分からない。
しかし、その言葉を受けて渡辺さんが退散したから助けてくれたという認識をしておこう。


「……藤浪さんもそのあだ名知ってたんですね」

「……」

「藤浪課長?」


渡辺さんが去っていった方向を見つめながら、なぜか深刻な顔をしている藤浪。
すると端正な顔がこっちを向いてゆっくりと口が開いた。


「今のはパワハラに該当するでしょうか」


怖い顔をするからてっきり怒られると思っていたけど、眉毛を下げて不安そうな顔をするから吹き出した。

部長に言われたこと気にしてるんだ。
意外と素直でかわいいとこあるな、プライドの高い冷血漢だと信じ込んでいたのに。


「大丈夫です、ここに救ってもらった証人がいるから。ありがとうございます、助かりました」


笑いかけると、藤浪は眉間のしわを解いて険しい表情を変えた。
安心したように軽くため息をついて「どういたしまして」なんて藤浪らしくない言葉をかけられた。

藤浪の担当になって2年、ようやく彼の人間らしい部分に触れられた気がした。
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