狼上司が執着するのは
藤浪の自宅は本当に近場にあり、歩いて5分くらいの場所にあるマンションだった。
なんとなくタワマンに住んでるイメージだったけど、至って普通の集合住宅のようだ。

などと情報を集めることで羞恥心を薄めようと必死だった。
27歳にもなっておんぶされるなんて恥ずかしいにもほどがある。深夜であまり人とすれ違わなかったのが不幸中の幸いだった。

そして藤浪、一日働いたはずなのにいい匂いがする。
石けんとほんのりウッド系の香水の匂い。まずい、藤浪の匂い好きかもしれない。

かくして藤浪の自宅に訪れることになった私は、人の家をじろじろ見てはいけないと知りつつも興味津々であちこちに視線を飛ばした。
藤浪の家は1LDKでリビングは黒い家具と木製の家具で統一されていて、無駄なインテリアはなく掃除がしやすそうな印象だった。


「何も面白いものはないと思いますが」


ソファに座ってキョロキョロ見回していると、藤浪が透明なプラスチックケースを持って私の膝の前にあぐらをかいた。

どうやら持っているのは救急箱らしい。
すごいな藤浪、私は家に救急箱なんて置いてないのに几帳面だ。


「隙がないんですね、藤浪さんって」

「ん?」


褒めるつもりで話しかけると、上目遣いで見つめられて衝撃を受けた。
仕事中で決して見せないゆるんだ表情がいい、気の抜けるような鼻にかかった声もいい。

なんだこの男、本当に油断できない!
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