狼上司が執着するのは
誘うような声で熱を帯びた目を私に向ける。
てっきり怒られると思っていたから、構えていた力が抜けた。

しかし、より厄介な方向に転がってると気がついて私は焦った。


「いや、そういうつもりじゃ……」


怖気づいて言い淀むと、頬に手を伸ばしてきた。藤浪からそんなふうに触れられたことは初めてで、過剰に反応して肩がびくっと跳ねた。


「しおらしいですね、狂犬ちゃんはどこに?」

「……私には狂犬じゃなくてちゃんとした名前があるんです」


どうにか普段の藤浪に戻って欲しくて言葉に角を立てて睨む。しかし藤浪の態度は変わらなかった。


「だいたい煽ったところで、課長はこんな可愛げのない女なんて抱けないですよね」

「それはどうでしょう」

「どうせこき使うばかりで私の下の名前も知らないくせに」

「楓乃子」


どうにかこの状況を打破したいにも関わらず、名前を呼ばれ押し黙ってしまう始末。
頬を滑る指先が熱くて、今にも感化されてしまいそうだった。


「知ってたんですか……」

「昔飼ってた犬が同じ名前です」

「はぁ!?」

「嘘です」


ところが私の名前が犬と同じなどと言い出して、抱かれてもいいかも、なんて傾いていた気持ちが木っ端微塵に離散した。

しかも嘘?藤浪、冗談とか言うんだ。
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