狼上司が執着するのは
居合わせた社員は「出たよ“狂犬ちゃん”」などと苦笑いをしてやれやれと肩をすくめている。
私は口ばっかりの連中をキッと睨みつけて黙らせ、目の前の男に鋭い視線を向けた。

藤浪柾は、平均40代で昇進する課長に30歳にして就任したエリート。しかもメーカーの要である営業部の課長だ。

少しつり上がった切れ長の目が特徴的の眉目秀麗な顔立ちの男で、前髪を立ち上げた黒髪には威圧感を覚える。
背も高く見た目はまるで俳優。藤浪は容姿は完璧だが、性格は最悪なことで知られていた。

ちなみにお偉いさんの息子だとかそういったコネではなく、本物の叩き上げらしい。
しかし、この男は仕事はできても毒舌で優しさの欠けらもない上司には向いていない人間。


「かの先輩……」


ほら、こいつに叱られ慣れていない新卒の琴梨(ことり)ちゃんは、不安そうに私の名前を呼んで縮こまって震えている。


「琴梨ちゃん、何があったの?手短に教えて」

「その、発注表に入力ミスをしてしまって……」


藤浪を睨みつけたまま琴梨ちゃんに話しかけると、予想通りの些細なミスだった。そんなことで叱るなよ。
だから裏で“一匹狼の毒舌上司”なんて影口を言われるんだよ。

呆れた私は盛大なため息をついて意見を述べることにした。
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