狼上司が執着するのは
「ひとりでする時はイケます?」

「うっ……はい」


もじもじしながら答えると、藤浪は「ふーん」と一見興味なさげに呟いた。


「性欲はあるんだ」


続いて無表情から繰り出された想定外の言葉。私は思わず藤浪の顔を二度見した。


「に、人間の三大欲求ですよ!ないわけじゃないけど……ううっ、なぜ私は藤浪さんにこんな話を……」

「別に恥ずかしいことじゃないですけど、ひとつ忠告させてください」

「なんでしょう……」

「ほかの男にそんな相談しないでください、絶対に
。ヤレるカモだと思われますから」


藤浪は険しい顔をして冷たい視線を投げてきた。
そんな怖い顔しなくてもいいのに。


「い、言うわけないじゃないですか!藤浪さんなら、真面目に聞いてくれるだろうなと思って……意を決して……」


否、藤浪は真剣に聞いてくれている。忠告してくれるくらいだし。
酒に酔って迷走してるな私。冷静にならなければ。
勢いを失った私はしゅんとうなだれて、泡の消えたぬるいビールをちびちびと飲んだ。

その時だ。藤浪が腕を伸ばしてきたかと思えば、大きな手を私の頭に置いた。
なんとあの藤浪に撫でられていたのだ。


「葉山さんも撫でられるの好きですか?」


驚いて顔を上げると、藤浪の口元が弧を描いている。
出たこのキラースマイル。仕事じゃ絶対見せない笑顔だ。
心臓が跳ね上がるほど大きく鼓動したのが分かった。


「嫌い、ではない」

「素直じゃないですね。人には素直になれって言うくせに」


なんなんだその魅惑的な笑顔は。どぎまぎしてあからさまに目を泳がせると藤浪は目を細めた。
< 31 / 32 >

この作品をシェア

pagetop