悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。


 要が放心状態になっていると、社長室に警備員が入ってきた。
 そのまま要は訳もわからず連行されてしまったという。


「第一発見者は清掃員のおばさんだった。社長室から物音が聞こえて気になって覗いたら、血まみれの社長がいて……悲鳴をあげて警備員を呼びに行ったんだ」
「それで、犯人だと思われたのか」
「取調べで何度も説明した。でも、物音にもおばさんの悲鳴にも気づかなかったのはおかしいって」
「気づかなかったのか?」
「イヤホンしてたんだ……その、誰もいなかったから」


 要は好きなバンドの曲を聴きながら作業すると集中すると、よく言っていた。
 今回はそれが仇になったらしい。


「でも、俺じゃない! 俺はやってないんだっ」
「わかってる。私たちは要のことを信じてる」


 つかさは力強く言い切った。


「要をこんなところで一人にはさせない。絶対出してあげるから」
「姉ちゃん……っ」


 要は嗚咽を漏らしながら泣きじゃくる。
 父も母も涙を流していた。

 つかさだけは泣くまいと歯を食いしばっていた。


(今不安で苦しくて仕方ないのは要なんだから、私がしっかりしないと)


 要はやっていない。
 絶対に他に真犯人がいるはずなのだ。

 要が殺害したという証拠もなければ、動機もない。
 きっと捜査が進めば要は犯人ではないとわかり、釈放されるはず――。

 つかさは一縷の望みに縋った。


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