悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。


 当時司法試験に向けて勉強していた頼久は、とても忙しくしていた。
 ずっと弁護士になると決めて勉強していたが、いざ法学部卒業を前にして揺れ動いていた。

 つかさに失恋して以来(実際は勘違いだったが)、兄と同じ弁護士になることに迷いが生じていたのだ。

 そんな時、相田から電話があった。


『相田か? 久しぶりだな』
《永瀬、今話せるかな》
『急用か? 今司法試験を控えていて忙しいんだが』
《……そうか、悪い。永瀬は、そうだよな》


 電話口の声が元気なさそうだと思ったが、それ以上は聞かずに電話を切った。

 その三日後、相田が大学の屋上から飛び降りて亡くなったという報せを受けた。
 意味がわからなくて、頭の中が真っ白になった。

 相田の通夜、葬儀に参列し彼が亡くなった理由を知った。
 交通事故に遭い、右足の靱帯損傷という大怪我を負ったこと。ほぼサッカーは続けられなくなってしまったこと。
 事故の原因は煽り運転だったこと。

 だが煽り運転を行った運転手は認めず証拠不十分だったことから過失運転致傷罪と判決を受けて罰金を支払い、とっとと釈放されたらしい。

 対して相田はプロへの道を閉ざされた。
 あんなに努力していたのにその絶望はいかほどだろう。


(僕があの電話できちんと話を聞けていたら……!)


 何故気づいてあげられなかったのか。
 話を聞けていたら、相田は飛び降りていなかったかもしれない。
 そう思うと悔やんでも悔やみ切れない。


< 101 / 157 >

この作品をシェア

pagetop