悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
まさか相田の命日に再び権田原郁夫の顔と名前を見るとは思わず、頼久は言葉が出てこない。
そんな頼久に藤川はおずおずと尋ねた。
「永瀬さん……? どうかしました?」
「……権田原郁夫は十年前に交通事故を起こしている」
「えっ? マジっすか?」
頼久はかいつまんで十年前に郁夫が起こした事故の内容を説明した。
煽り運転で相手に大怪我を負わせたにも関わらず、軽い刑だったこと。
その怪我を負った人物は頼久の友人であり、後に自殺したこと。
「そうだったんですか……」
藤川は肩を落とし、眉を下げる。
「だから毎年十月十七日は出かけていたんですね」
「知っていたのか」
「そりゃ永瀬さんの担当事務官ですから。スケジュールは把握してますよ」
「そうか」
藤川はぐいっと残りのカフェオレを喉に流し込んだ。
「もしこいつが真犯人だとしたら、ついに有罪にできるんですね」
「まだ決まったわけじゃない」
「でも、絶対そうですよ!」
「藤川、何度も言うが証拠もないのに決めつけるな」
「……すみません」
「手嶋郁夫を徹底的に洗うぞ」
「承知しました」
藤川はメガネをかけた。ブルーライトカット効果のあるメガネでPC業務に集中したい時にかけるものだ。
藤川の気合いスイッチが入ったという合図でもある。
頼久も負けてられないと気合いのブラックコーヒーを淹れようとしたところで、スマホにメッセージが届いた。
「藤川、ちょっと出てくる」
「戻られますか?」
「戻ると思うが遅くなる。僕のことは待っていなくていい」
「わかりました」