悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。


 会話している間、藤川はPC画面から視線を逸らさなかった。


「永瀬さんってすごいですね」
「何がだ?」
「因縁の相手を今度こそとっ捕まえられるかもって時でも、冷静じゃないですか」
「……冷静になろうと必死なだけだ」


 それだけ答えて頼久は執務室を出た。


(本当は冷静ではいられない)


 藤川に言った言葉は自分自身への戒めでもある。
 まだ郁夫が犯人だという証拠はどこにもない。憶測の域を出ない段階で決めつけるのはあまりにも危険すぎる。


(どんな形で関わっていようと絶対に逃しはしない)


 頼久は気持ちを落ち着かせるために一度深呼吸してから、スマホを開いた。
 メッセージは二件届いており、そのうち一通はつかさからだった。

 つかさからのメッセージを読みたいと思いつつ、まずは先程届いたメッセージを開く。
 確認してすぐに返信するのではなく、その人物に電話をかけた。


《もしもし》
「お疲れ様です、松丸(まつまる)さん」
《おう、より坊。メッセージ見たか?》
「その呼び名はやめてくださいと言っていますが」
《はは、悪いな永瀬検事》


 電話の相手は所轄の松丸寛治(かんじ)刑事である。
 父の古くからの友人で現場一筋のベテラン刑事だ。
 出世の話を何度も断り、定年を前にしても現場での捜査を第一としている。

 頼久が幼い頃からよく知っている人で、検事になってからもお世話になっている。


< 106 / 157 >

この作品をシェア

pagetop