悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
惺久に対し勝手に話されたいう気持ちはなかった。
どちらかといえば普段通りにしていたつもりだったのに、つかさに気づかれていた驚きの方が大きい。
「私ずっと頼くんはどうして検事になったのか気になってた。相田さんのことがあったからだったんだね」
「兄貴はそんなことまで話したのか」
頼久は肩を竦める。
「相田は高校の同級生だった。サッカーが大好きな真っ直ぐなやつだったよ」
「プロを目指してたって」
「ああ、でも事故で大怪我をして選手生命を絶たれた。相田が亡くなる三日前、久々に僕に電話をかけてきた。だけどその頃司法試験の勉強で忙しく、話を聞かなかった。あの時話せていたら――」
「頼くんは悪くないよ!」
言い終わる前につかさが声をあげる。頼久の目を真っ直ぐ見て言った。
「頼くんのせいじゃない。煽り運転で事故を起こした人が悪いんだから」
「わかっている。話を聞いていたとして、僕には何もできなかったかもしれないとも思う。だけど、忘れたくないんだ」
相田克也という人間が生きていたことも、相田が何故亡くなったのかも。
「それが僕が検事であり続ける理由だから」
「頼くん……」
「つまらない話をしたな。梨タルトをいただこう」
頼久はフォークでタルトを一口分切って口に運ぶ。
甘酸っぱい美味しさが口の中に広がる。
「うん、美味いな」