悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
その言葉は聞き捨てならない。むしろ不正な証拠で犯人に仕立て上げられたのは要なのだ。
「弟は無実です。頼久さんは間違った裁判をやり直すために動いてくれているんです」
《彼の黒い噂、知らないわけじゃないわよね? あの男は自分の出世のためなら何でもする、そういう男よ》
「あなたに頼久さんの何がわかるんですか!」
思わず立ち上がり、電話口で怒鳴っていた。
「彼は間違いを正そうとしてくれているだけです。どんな不正も絶対に許さない人です。何も知らないくせに勝手なこと言わないでください」
自分でも感情的になっている自覚はあった。
でも黙ってなどいられない。頼久がどんな思いで検事になり、今まで事件と向き合ってきたのか知ったからこそまりえの言葉が許せない。
《……そう。あなたが自分の立場を全くわかっていないことがよくわかったわ》
電話越しでまりえは静かに呟く。
《どうせ弟を無実にするなんて無理なんだから、大人しくしているのが身のためなのに》
「あなたには関係ありませんよね?」
《いいえ、あるのよ。あなたの弟には、このまま刑務所にいてもらわないと困るの》
「それは、どういう――」
《では、改めて今後の身の振り方をよく考えなさい》
吐き捨てるように言われ、一方的に電話を切られた。
今のは一体どういう意味だろう。あの事件にまりえも関係しているのだろうか。
とにかくこのことは頼久に知らせよう、そう思ったら再び電話がかかってきた。
今度は母からだった。