悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
まさか関屋検事正本人だとは思わなかった。
つかさの額に冷や汗が浮かぶ。
「今夜は私の奢りだ。好きなものを頼んでくれ」
「いえ、結構です」
「毒でも入っているんじゃないかって? 安心したまえ、ここのマスターは場所を貸してくれているだけで無関係だ」
「……では、ウーロン茶を」
とてもじゃないがアルコールを飲む気分にはなれなかった。
関屋が声をかけると裏から白髪の口髭を蓄えたマスターが出てきて、ウーロン茶とウイスキーを用意してくれた。
一口飲んだウーロン茶は何も入っていない、ただのウーロン茶だった。
関屋はウイスキーを口に含んでから言った。
「さて、本題に入ろうじゃないか。あなたの弟さんは非常に残念だが、殺人という罪を犯した。事実はどうであれ、そう決まったんだ」
「それは、どういう意味ですか」
思わずジロリと関屋を睨む。
「言った通りだよ。もう判決も出ているだろう」
「弟は無実です。夫が証明してくれます」
「あなたの旦那がどれだけ奔走しようとも、無意味だ。この私が起訴を認めない限りはな」
「えっ……」
関屋は常識だと言わんばかりの笑みを浮かべる。
「おや、知らなかったのかい? 最終的な決裁を下すのは東京地検のトップであるこの私だ。永瀬検事がいくら他の被疑者の情報を完璧に揃えてこようとも、私が認めない限り起訴はできない」