悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。


 頼久のメガネの奥の瞳は静かな怒りを滲ませ、冷徹に光っていた。


「クソッ! どうなっているんだ。マスターはどうしたっ」
「わしのことかな?」


 そう言って裏から出てきたのは、ウーロン茶とウイスキーを提供してくれたマスターだった。
 先程は顔をよく見ていなかったが、白髪混じりのグレーヘアを綺麗に整え口髭のよく似合うダンディな老紳士である。

 その人物を見た瞬間、関屋は目を大きく見開く。


「あっ、あなたは……! ろ、六条会長!」


 まるで鯉のように口をパクパク開ける関屋。
 それを聞いてつかさも改めてマスターを凝視した。


(六条会長ってまさか……)


 驚愕して言葉を失う者たちをよそに、六条会長は穏やかに笑う。


「わしの作ったウイスキーはいかがだったかな? ばーてんだーというやつは初めての体験だったので緊張したよ」
「全くおじいさま、バレないものかとヒヤヒヤしましたよ」
「大丈夫だったではないか。なかなかの演技だったじゃろう?」


 楽しそうにニコニコしている六条会長に対し、頼久はやれやれとメガネを押し上げる。


「な、何故六条会長が……」
「それはな、この店を買収したからじゃよ」
「ば、買収?」
「心配せずとも、マスターや従業員たちはそのまま働いてもらうつもりじゃ。今日はみんな休暇中だがな」


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