悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
関屋の視線と声のトーンが急に冷ややかなものになった。
「弟さんを信じたい気持ちはわかりますが、事実はすべてを物語っている。現実に目を向けた方がいい」
「だって、弟はやってない!」
「ご家族からすれば、受け入れ難いでしょうね……」
哀れみの視線を向けながら、決して取り合おうとはしなかった。
「それでも弟さんは無実だと仰りたいなら、まあ再捜査してみても良いかもしれません」
「本当ですか!?」
「弟さんのためにどこまでカラダを張れますか? ――お姉さん」
「……っ!」
つかさはゾワリ、と全身に悪寒が走った。
関屋は舐め回すような視線でつかさを上から下まで見下ろし、ニマニマと笑みを浮かべる。
意味を察したつかさは言葉に言い表せない程の屈辱と怒りを覚えた。
(信じられない……この男、ありえないっ!)
無実の人間を有罪にするどころか、その家族にはカラダを差し出せなどとは横暴すぎる。
検事とはこんなにも卑劣なのかと蔑んだ。
「最低……っ!」
思わず手を挙げて、その手首を誰かに掴まれた。
驚いて振り向くとスーツ姿にメガネをかけた黒髪の男性がつかさの手首を掴み、静かに見下ろしている。
鋭く冷徹な双眸がレンズ越しに見えるその男性は、端正で美しすぎる顔が迫力を増していた。
彼はつかさの腕を掴んだまま、低い声で言った。
「やめておけ」
つかさはドキッとした。
突然腕を掴まれて驚いたわけでも、美貌に見惚れたわけでも、恐怖を抱いたわけでもない。
彼が見知った人物だったからだ。