悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。


(嘘でしょ……? まさか、この人って)


 その男は、つかさの初恋の人。
 唯一恋をした人であり、二度と恋愛ができなくなった原因でもある永瀬(ながせ)頼久(よりひさ)その人だった。


「地検の前で堂々とナンパですか。関屋検事」
「なっ、永瀬……検事」


 関屋は頼久を見た瞬間、顔を引き攣らせる。
 つかさは関屋の言葉を聞き、耳を疑った。


(今、検事って言った……?)


 頼久は衝撃で言葉を失うつかさには目もくれず、淡々と続ける。


「週刊誌に撮られでもしたらどうするおつもりです? またお父様に揉み消してもらうのですか」
「う、うるさい。ナンパじゃない! 彼女の方から話しかけてきたんだっ」
「ほう、そうでしたか」


 頼久はパッとつかさの腕を離し、さりげなく前に立った。
 まるで関屋から守るように。


「どちらにせよ、ここで騒ぎを起こすのはおやめになった方がよろしいかと」
「お前にそんなこと言われる筋合はない」


 吐き捨てるように言うと、関屋は踵を返し大股歩きで去っていった。
 関屋の姿が見えなくなってから、頼久はつかさに言った。


「あの男は女癖が悪くて有名だ。関わるとロクなことにならない」
「え……」
「気をつけて帰るんだな」
「あ、あのっ」


 つかさは一呼吸置き、思い切って懐かしい呼び名で声をかけた。


「頼くん、だよね……?」


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