悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
そういえば、とつかさはふと思い出して岸本に尋ねてみた。
「あの、岸本さんは永瀬頼久さんという方はご存知ですか?」
「永瀬検事? もちろんですよ」
岸本は即答した。
「永瀬検事といえば、若手ながらかなりの敏腕検事と有名ですからね」
「あのその方……弁護士さんではなく、検事さんなんですよね?」
「はい、そうですが……あっ、もしかしてお兄さんの方ですか?」
「お兄さん……」
「永瀬検事のお兄さんは弁護士なんです。お兄さんも優秀な方で、弁連で何度かお会いしたことがあります」
そう言ってから岸本はやや不思議そうに尋ねた。
「永瀬さんがどうかされましたか……?」
「あ、いえ……どんな方なのかなぁと思って……弟さんの方なんですけど」
「深くは聞きませんが、あの人に近づくのはおやめになった方がよろしいですよ」
そんな風に言われるとは思わず、つかさは目を丸くする。
「何故ですか?」
「あまりこんなことを言いたくありませんが……永瀬検事には黒い噂があるんです」
黒い噂と聞いて、つかさは思わず唾を飲み込む。
「彼は若くして天才と呼ばれていますが、どんな犯罪者も許さず彼が担当になると必ず有罪判決になります」
「必ずですか?」
「はい。噂ですが証拠品のねつ造、証言の操作――あらゆる手段を行使して有罪判決をもぎ取るのです」
つかさは耳を疑った。
これが永瀬頼久のことを指しているのか、まるでピンとこない。
「でも、あくまで噂なんですよね?」
「噂ですがあの若さで登り詰めたので、まるっきりの嘘でもないのではと思っています。わかりませんけどね」