悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
明らかに敵意を向けた視線を向けてくる見知らぬ美人に、戸惑いを隠せない。
『どちら様ですか……?』
『私は内海まりえ。永瀬くんと同じゼミで恋人よ』
“恋人”。
その二文字を聞いた瞬間、喉の奥がヒュッと冷えた。
いきなり鈍器で頭を殴られたように目眩がした。
『単刀直入に言うわ。幼なじみだかなんだか知らないけど、もう彼には近づかないで』
まりえは一層強くつかさを睨み付ける。
『あなたのこと、調べさせてもらったわ。父親は赤字経営の社長だそうね』
『……だから、なんですか』
『あら、直接言わなきゃわからないのかしら? あなたと彼では全く釣り合わないのよ』
それはその通りだと思った。
頼久の父は大手弁護士事務所の代表、父方の祖父は元法務大臣、母方の祖父は旧財閥グループ会長。
ああ見えて格式高い家柄の出身なのだ。
たまたまお向かいに引っ越してきたから仲良くなったが、本当は自分とは住む世界の違う人間なのだとわかっている。
(家族ぐるみの付き合いがなくなったのも、段々と永瀬家の大きさを知ったからだ)
子どもの頃はよくわかっていなかった。
成長するにつれて何となく理解していたが、それでも頼久は変わらずに接してくれた。
その彼の優しさと懐の深さに甘えていたところはある。
『私のおじいさまは元農林水産大臣なの。永瀬さんとは家族ぐるみでお世話になっていて、お付き合いを報告したらとても喜んでくれたわ。いずれ結婚してくれたら嬉しいって』