悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
顔を見られたくなくて、思わず強く腕を振り払ってしまった。
今のは良くなかった、と振り払ってから思った。
『何かあったら僕に頼れっていつも言っているだろう?』
頼久の寂しそうに尋ねる。それでもつかさは頼久の顔が見られない。
『それとも僕には話せないのか?』
『……っ』
頼久はどうして優しくするのだろう。
幼なじみだから? 友人だから? それとも妹みたいに思っているから?
まりえがつかさに敵意を向けたくなるのは、彼のこういうところなのだろう。
恋人がいるのに他の女を心配するところが気に食わないのだ。
そしてつかさにとってもその特別扱いは、酷く惨めなものに感じてしまった。
(結婚を前提に付き合う恋人がいるくせに、優しくしないで)
気づいたらつかさは大声をあげていた。
『……私のことは放っておいて』
『つかさ……』
『頼くんには関係ないし話したくない! ハルくんに相談するから!』
勢いのままに吐き出してしまってから、ハッとした。
目の前の頼久が酷く寂しそうな、悲しそうな瞳でつかさを見つめていた。
こんなに悲しそうな頼久は見たことがなかった。
『……そうか、僕では頼りないか』
『あ……、』
『わかった。もう話しかけない』
『っ、頼くん!』
頼久はそのまま背を向け、自宅に入っていった。
これが頼久との最後の会話だった。