悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。


 ソファを勧められて腰を沈めると、その肌触りだけでこのソファの高級感が伝わる。
 思わずいくらするのだろうと脳内で計算してしまった。

 部屋にはアンティークの調度品やら観葉植物が飾られ、セレブな空間を演出している。


「奥様、とお呼びするのはまだ早いでしょうか。お名前を伺ってもよろしいですか?」
「あっ……美澄つかさと申しますっ」


 慌てて頭を下げると、オーナーはにこやかに微笑む。


「美澄つかさ様。お名前までお美しいのですね」
「いえ、そんなことは……」


 これはオーナーの接客サービスだとわかっていても、そんな風に褒められるとドギマギしてしまう。

 それからオーナーはいくつか指輪を持ってきてくれた。
 指輪一組ずつに対し、丁寧に説明してくれたがまるで頭に入らなかった。


(これ、一体いくらするの?)


 値段ばかりが気になってしまい、ほとんど話を聞いていなかった。


「お気に召したものはございましたでしょうか?」
「えっと……、頼久さんはどれがいいと思う?」
「なんでもいい。つかさの好きなものを選んだらどうだ」


 わからないから尋ねたのに、丸投げされてしまった。
 オーナーは「お優しい旦那様ですね」などとニコニコ笑っている。


(ちっとも優しくない! なんでもいいなんて一番困るのに)


< 38 / 157 >

この作品をシェア

pagetop