悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
頼久の母方の実家は六条グループといって誰もが知る巨大企業で旧財閥系でもある。
揺るぎない権力を持ち、だからこそ派閥争いに巻き込まれるのだ。
今更になって気後れしてきたが、そんなことは言ってられない。
要のため、自分にできることはなんでもするのだと、自分自身に言い聞かせる。
指輪は一週間程で完成するらしい。
恐らく一つでつかさの貯金分くらいはあるだろう。
とりあえず農業の時は絶対に外そうと心に決めた。
「さて、このまま役所へ向かう」
真顔で車を走らせる頼久にギョッとした。
「待って、本当に籍を入れるの?」
「当然だ。まさかただの偽装結婚だと思っていたのか?」
「だって、関屋検事正に結婚したと思わせたらいいんでしょ?」
「甘いな」
信号が赤になって停車する。頼久は運転席からチラリとつかさに視線を投げた。
「僕が何故わざわざ一級品の結婚指輪を買ったと思う? 愛する妻に相応しいジュエリーを選んだという実績を得るためだ」
愛する妻。心ときめく単語のはずなのに、全く感情がこもっていない。
「生半可なことではあの人はどんな横槍を入れてくるかわからん。届けを出し、正式に籍を入れてもらう」
「わかった」
受け入れるしかなく、つかさは肩を竦めた。
「でも、だったら家族にはちゃんと紹介させて。本当に籍を入れるなら証人欄だって書いてもらわなきゃ」
「……それもそうだな」
急に頼久は声を細めた。
「悪かった。少し先走りすぎたな」