悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。


 つかさは式は挙げないという設定でもよかったのに、と思った。
 だが頼久には立場があるので、そういうわけにもいかないのだろうと納得した。

 その日はそのまま車で千葉の実家まで送ってくれた。
 電車で帰ると言ったが、少しだけ挨拶したいというので車で送ってもらった。

 正直今実家の状況を見られるのは嫌だなと思った。
 落書きされたペンキを完全に落とし切れていないからだ。


「ただいま」
「おかえり、つかさ」


 父の立樹が梨の入った段ボール箱を運んでいた。
 つかさの隣に頼久がいるのを見ると、驚いて目を丸くする。


「そちらの方は……?」
「ご無沙汰しております、永瀬頼久です。覚えていらっしゃいますでしょうか」


 頼久は恭しくお辞儀をする。
 立樹は大きく目を見開いた。


「永瀬って、あの永瀬さんですか?」
「はい」
「か、母さん! 来てくれ!」


 立樹は慌てて母のつぐみを呼ぶと、何事かといった様子で顔を出す。
 頼久の姿を見ると、つぐみは固まった。


「昔お向かいに住んでいた永瀬さんだ」
「お久しぶりです、永瀬頼久です」
「えっ!? あの頼久くん!?」


 つぐみも大声をあげると、慌てて頼久に頭を下げた。


「まあまあ、お久しぶりです。頼久くん、いつの間に立派になられて……」
「つかさのことを送ってくださったのですか? ありがとうございます」


 立樹も一緒になって頭を下げていた。
 二人ともかなり驚いているようだ。


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