悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
被告人の小津は愛らしい小動物のような女性で、ずっと辛そうに俯いていた。
つかさは彼女に同情した。どれだけ怖い思いをしてきたのだろう。
「永瀬検事、何か意見はありますか」
「はい。結論から申し上げますと、私は被告人に殺意はあったと思っています」
頼久の言葉に法廷がざわついた。
裁判官が「静粛に」と周囲を諌める。
「まず殺害現場ですが、被害者のアルバイト先近くです。被告人の自宅からは駅三つ分離れています。通りかかったところを襲われたにしては、違和感があります」
小津はガールズバーで働いており、職場は自宅から徒歩圏内だ。
ストーカーされていたのだとしたら、わざわざ相手の近くに行くとは考えにくい。
「更にこちらをご覧ください」
モニターに映し出されたのは、遺体に刻み込まれた刺し傷をアップにした写真だった。
あまりの生々しさにつかさは目を逸らす。
「刺し傷は三ヶ所。まず心臓付近を深く刺した、これが致命傷でしょう。その他にも二ヶ所の刺し傷があります」
頼久は冷徹な瞳を小津に向ける。
「被告人、あなたは揉み合った時にナイフが刺さってしまったと言いましたね。“偶然”揉み合って、心臓近くを刺してしまったのですか?」
「そ、そういうことだと思います。あたし、あの時必死で、あんまり覚えてなくて……」