悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
小津は身を震わせ、大きな瞳に大粒の涙を溜める。
まるで獲物に狙われた子うさぎのようだが、頼久は容赦なく畳み掛ける。
「偶然にしてはこの傷は深すぎる。傷の深さ、角度からしてほぼ垂直に刺しこまれています。女性の力で“偶然”こんなに深く刺さるものでしょうか?」
「うるさいっ! あたしは殺されかけたのよ! 無我夢中だったんだからっ」
それまで弱々しかった小津は急に一変し、大声で喚いた。
弁護士が意を唱える。
「裁判長、検察側の主張は飛躍しすぎています」
「飛躍? どこがでしょうか?」
そう言うと頼久はピンクのスマホカバーにジャラジャラとストラップがぶら下がったスマホを見せた。
「裁判長、こちらは被告人のスマホです。メッセージ履歴をご覧ください」
今度はモニターにスマホ画面が映し出された。
メッセージの相手は被害者の鳴橋であり、このような一方的なメッセージがいくつも送られていた。
【しゅうと、今どこにいるの?】
【会いたい】
【しゅうとがいないと生きていけない】
【他の女のとこいるの? むり】
これを見た弁護士は即座に声をあげる。
「異議あり! そのメッセージは本件とは関係ありません!」
「関係ない? 本気でそう思っているのですか?」
頼久は弁護士を一睨みで黙らせる。獰猛な獣が威嚇しているようだ。
「被告人は毎日百通以上のメッセージを被害者に送っていました。被害者に対し、復縁を求めていたのは被告人の方だったのです」
「ちがうっ! 違う違う違う!」
「あなたは最初から、振り向かない鳴橋さんを殺害しようとしていたのではないですか?」
頼久の刺すような冷徹な瞳は、絶対に逃さないと言わんばかりだった。
「あたしは悪くないもんっ! だって周斗が……周斗があたしを捨てたから……!!」