悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。


 大声をあげて号泣する被告人・小津彩子。
 それまでは悲劇の女性として聴衆の同情を向けられていた彼女だが、一転してストーカー女となっていた。


「――以上です」


 頼久は静かに立証を終えた。

 小津彩子に下された判決は、殺人罪による懲役十五年。
 正当防衛は認められなかった。

 心臓近くを狙った一撃、その後も複数回刺している点から殺意があったこと。
 スマホのメッセージの他にも被害者に強い執着心を抱いていたというストーカーの証拠が提示され、この判決が下された。


「相変わらず恐ろしいな、永瀬検事」


 裁判所から出る時、同じ傍聴席にいた傍聴者の声が聞こえた。


「悪人には容赦しないっつーか、どんな犯罪者も絶対許さないっていうか」
「犯罪者は全員悪人だと思ってそうだよな。こえーよ」


 つかさはそんな声を耳にしながら、気持ちの整理ができなかった。
 恐らく頼久は正しかった。小津には明確な殺意があったのだろう。

 彼の鮮やかな手腕は素晴らしかったと思うのに、何故か心にポッカリと穴が空いたようだ。

『つかさ、僕は困っている人を助けられる弁護士になる』

 真っ直ぐな瞳でそう言っていた頼久のことが好きだった。
 あの時はまだ自覚していなかったが、きっとあの時から既に恋をしていた。

 だが、今の頼久はどんな犯罪者にも容赦しない、冷酷な検事なのだと改めて目の当たりにしてしまった。


(そんな人が、本当に要を助けてくれるの……?)


< 48 / 157 >

この作品をシェア

pagetop