悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
元々立樹は東京で友人と小さな化粧品会社を立ち上げ、梨の化粧水を作りその商品を売りにしていた。
しかし売り上げは伸び悩み、つかさが高校卒業と同時に会社は倒産した。
その後一家揃って千葉に引っ越し、祖父の梨農園を手伝うことにしたのである。
そんな経験から、要は絶対に自分は東京で成功するのだと子どもの頃から夢見ていた。
その夢を叶える一歩を踏み出せたということなのだろう。
「つーかさ、姉ちゃんは結婚しないわけ?」
「急に何よ」
「だってもう三十だろ?」
「うるさい、ほっといて」
つかさは今年の一月で三十になった。
早生まれなので学年は三十一になる年だ。
同級生は結婚ラッシュであり、中には子どもが産まれた子もいる。
「梨の世話ばっかしてないでいい人見つけろよ」
「私は好きで梨作りをしてるんだから」
「でも、姉ちゃんが結婚して家を出て行くことになったら、ちょっと寂しいな」
「芯ちゃん……!」
つかさは思わず末の弟をぎゅうぎゅうと抱きしめる。
「芯ちゃんを置いて行ったりしないから!」
「姉ちゃん、苦しいよ」
「まだ弟離れできないんじゃ当分無理か」
「あんたは別に好きにしていいから」
「ひでー。俺もかわいい弟なのに」
要はブーブーと口を尖らせるが、年の離れた弟と二歳差の弟では甘やかし方が変わるというものだ。
それでも内心では要のことを心から応援していた。
自分の目標に向かって仕事を頑張る弟のことを、誇りに思っている。