悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
いくら要は無実だとしても、今は有罪判決を受けている。
側から見ればつかさは犯罪者の身内だ。厄介な娘と結婚すると思われても仕方ないのに、そうならないことが有難いと思った。
(だからこそ、申し訳なくもあるのだけど……。両親たちはこの結婚を祝福してくれているのに)
もし要が無罪となり、釈放されることになったらこの結婚はどうなるのだろう。
その時点で取引終了となるのだろうか。
「では、この紙を提出していいな」
「……はい」
互いの両親へ挨拶した際、婚姻届の証人欄に記入をしてもらった。
永瀬家の挨拶後、その足で役所に向かい記入済婚姻届を提出する。
この瞬間から、美澄つかさから永瀬つかさへと変わった。
何の実感も湧かなかった。
自分はもう後戻りはできない。
いくら迷いがあったとしても、頼久を信じて前に進むしかない。
「弟のこと、よろしくお願いします」
役所を出た時、つかさは頼久の目を真っ直ぐ見て深々と頭を下げた。
今は取引後のことを考えていても仕方ない。
まずは無罪判決を勝ち取る、それだけだ。
この約束だけは、何が何でも守ってもらわねばならない。
「ああ、わかってる」
頼久は抑揚のない声で答えた。
血が通っているのかわからないくらい、冷淡な表情だ。
(梨を食べる時はちょっとだけ嬉しそうにするくせに)