悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。


 *


「着いたぞ」
「え……ここ?」


 婚姻届を提出してから数日後、車で連れて来られた場所は千代田区にあるコンシェルジュ常駐の低層レジデンスだった。
 モダンでおしゃれな外観の高級マンションで、頼久の自宅である。


「流石は本物のセレブ……」
「ここは僕が検事になる時、祖父が建てたマンションなんだ」
「えっ、頼久さんのためにわざわざ建てたってこと?」
「恨みを買いやすい職業だから心配してな。わざわざ霞ヶ関から通いやすい場所に建ててくれた」


 確かに検事は何かと恨みを買うことがあるのだろうが、それでも孫のためにマンションを建ててしまうのがセレブの発想だ。
 あまりにも規格外だと早くも圧倒された。


「ちなみにセキュリティが万全だから芸能人も住んでいる。運が良ければ会えるかもな」
「えっ! 誰!?」
「さあ。芸能界には疎いからよく知らない」


 期待だけさせておいて誰だか知らないところが頼久らしい。


「推しとお隣さんになるかもしれないなんて、夢ありすぎない?」
「……推しがいるのか?」
「あ、私じゃなくて友達が韓流アイドル好きで」
「そうか」


 さほど興味なさそうにしながらカードキーでドアを開ける。
 案内されたリビングダイニングは、白を基調としたシンプルで広々とした空間だった。

 ダイニングテーブル、ソファといったインテリアは揃っているが、本当に必要最低限のものだけ置いているという感じで部屋の広さに反して物がない。


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