悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
惺久は特に気にする様子はなく、それ以上は突っ込まなかった。
「さて、俺はこれで失礼するよ」
「えっ、もう帰っちゃうの?」
「この様子だと頼久は夜遅いんだろ? 出直すよ」
「お茶くらい飲んで行ってくれたらいいのに」
「ありがとう。でもつかさちゃん、棚を買ったということはまだ荷解きが済んでいないんじゃないか?」
図星だ。流石は惺久、勘が鋭い。
「うん、実はまだなの」
「むしろ邪魔してすまないな」
「そんなことないよ。ハルくんに会えて嬉しかった」
「また改めてお祝いさせて」
惺久はにこやかに微笑んだ後、急に真顔になった。
「それから――、何かあればいつでも相談して」
「……! ありがとう」
きっと要のことを言ってくれているのだろうと思った。
頼久と再会してから、永瀬家にはそんな風に声をかけてもらえてとても救われている。
改めて感謝すべきだと思ったし、もっと頼久を信じなければならないと反省した。
(この取引を決めたのは自分自身なんだから、私がもっと彼を信じなきゃダメだ)
検事として冷淡に被告人を追い詰める姿には驚いた。
だけど、彼なりの正義を貫こうとしているのだろう。
黒い噂があったとしても、頼久は要の事件に真摯に向き合おうとしてくれている。
何より彼が約束を違う人ではないことは、よく知っている。
「……よし、私は私のできることをしなきゃ」