悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
第五章 隠し通せぬ執着愛
つかさにとってはただの幼なじみで、決して恋愛対象でないと頼久自身よくわかっている。
一度フラれているようなものなのに、何十年も引きずって情けなく、未練たらしいことも承知している。
いい加減諦めて、長すぎる初恋を断ち切ろうとしたこともあった。
それでも彼女と再会して、やはりどうしようもなくつかさに恋焦がれてしまうと思い知らされた。
*
「永瀬さーん。おーい、永瀬検事〜!」
「……聞こえてる」
頼久は執務室で新聞を読んでいたが、うるさそうにバサリと閉じた。
「なんだ、ずっと思い詰めた顔してるから奥さんと上手くいってないのかなって心配しちゃいましたよ」
地検で冷酷悪辣検事と噂される頼久に対し、こんな風に軽口を叩ける唯一の人物といっても過言ではない。
彼の名は藤川雅人、検察事務官だ。年齢は今年で三十歳。
短髪を刈り上げ、地検で働く人間にしては良くいえばオシャレ、悪くいえばチャラチャラしている。
実際今時の若者を体現したような、マイペースでゆるい雰囲気の男だった。
頼久のことを取っ付きづらいと煙たがる者が多い中、自ら頼久の担当事務官になりたいと志願した変わり者でもある。
「お前はいつも一言多いな」
「よく言われますー。そんなことより永瀬さん、例の件メールで送っておきました」
だがこの男、こう見えて仕事はかなり出来る。
メールに添付されているPDFを開けば、テシマホールディングス社長殺害事件に関する調査内容が事細かにまとめられていた。