悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
懐かしい呼び名で呼ばれた時、覚えていてくれたのかと嬉しくなった。
だが己を律し、つかさに冷たい態度を取る。
もうここには来るなと忠告した。
(つかさ、綺麗になっていたな……)
幼なじみのつかさに恋をしたのは、いつからだろう。
気づいた時には頼久にとって、たった一人の特別な女の子だった。
弟思いで世話焼きだが、頼久の前では年相応の無邪気さを見せてくれる。
感情のままにくるくると変わる表情は見ていて飽きない。
どんな表情も頼久の目には眩しく映っていた。
ずっと想いを寄せながらもそれを伝えなかったのは、異性として見られていなかったから。
そして、つかさが好きなのは兄の惺久だと知っていたからだ。
『ハルくんと話すのってちょっと緊張しちゃうんだよね。カッコよくて王子様みたいだから』
自分には決して見せないほんのりと頬を染めた顔を見た時、ああそういうことなのかと思った。
表情筋がほとんど動かない頼久とは違い、惺久は表情豊かで愛想も良い。
司法試験を一発合格する優秀さで、何をするにも完璧な兄だった。
勝ち目のない恋だとわかっていながら、つかさへの想いを断ち切れず十年以上片想いしていた。
高校生になったくらいから告白されることが増えたが、「好きな人がいる」と断り続けた。
何度諦めようとしても、つかさが「頼くん」と微笑みかけてくれるたびに彼女への想いは募るばかり。
未練たらしい自分を心の中で詫びながら、せめて幼なじみとして傍にいさせてほしいと願った。