悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
その後つかさは一家で千葉に引っ越し、それ以来会うことはなくなった。
連絡をしようと思えばできたが、失恋しているくせに未練がましく連絡するのは憚られた。
というより、そこまでの勇気はない。
つかさに嫌われるのが怖かった。
検事という職業をぼんやり意識し始めたのはつかさに失恋した直後、惺久と同じ職業に就きたくなかったという理由である。
優秀すぎる兄は永瀬法律事務所の跡取りとして、有能な弁護士になるのだろう。
つかさが憧れ恋焦がれる兄とは別の道を進みたい。子どものような対抗心からだった。
しばらくは迷っていたがその後、検事を目指す決定打となる出来事があり――大学四年で進路を変えた。
検事になると知った時、父は『弁護士になると言っていたのに何事か』と怒った。
だが元法務大臣である父方の祖父は賛成してくれた。
『頼久が思う正義の道を進みなさい』
その祖父の言葉に後押しされ、法学部卒業後司法試験に合格し検事となった。
頼久はずっと自分の信念を持って仕事に取り組んできた。
悪を許さず法の元に正しい裁きを与えることが自分の使命だと思った。
後ろ指を指されたりもするが、自分は何も間違っていない。
言いたいやつに言わせておけばいいし、ただ己の信じる道を進むだけだ。
そうして仕事に打ち込み、いつしかつかさを思い出さなくなっていた。
このまま時間とともに失恋の痛みが風化していくと思っていたが、十二年ぶりに再会して自分は何も変われていないと気づく。
やはりどうしてもつかさが好きだと思った。