悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
弟の無罪を信じるつかさは毎日千葉から東京の刑務所まで通っているらしい。
『美澄のお姉さん、なかなか美人なのにもったいない。もう少し従順なら生きやすかっただろうにな』
喫煙所を通りかかった時、耳障りな関屋の声が聞こえて血が滲み出そうになる程拳を握り締めた。
この男によってつかさは苦しめられているようなものなのに。
(僕がこの手で真犯人を見つけ出してやる)
頼久は決意を固め、その足で美澄要が収容されている刑務所に向かった。
やはり今日もつかさは面会に訪れていた。
かなりメンタルをやられているのか面会室を出た廊下でしゃがみ込んでいたが、話しかけると強くて真っ直ぐな瞳を向ける。
『要は人殺しなんて絶対にしません。姉の私が一番よくわかっています』
眩しい程の真っ直ぐさ、頼久が愛してやまないつかさそのものだった。
だが弟を救うためならなんでもやると言い切る覚悟が少し危ういとも思う。
(そんなこと僕以外の男には言うな)
だから関屋みたいな男に手篭めにされそうになるんだと思いながら、彼女に最低な取引を持ちかけた。
『僕と結婚しないか?』
弟の無罪判決と引き換えに結婚を迫る。
つかさからすれば有り得ないだろう。恨まれても文句は言えない。
だがつかさを守るためなら、どんな憎まれ役にでもなってやろうと思った。
(恐らくこの事件、関屋は何か関係している。あの証拠はでっちあげたものだ。何か理由があって要くんに罪を着せたのは間違いない)