悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
「あの」
「あの」
二人の声が重なった。
「つかさからでいい」
「いや、頼久さんから」
「それなら――昨日はすまなかった」
頼久が謝るとつかさは驚いたように目を丸くする。
「昨日は、変な態度を取ってしまった」
「そのこと、私も話したかったんだけど誤解だよ」
「誤解?」
「私ハルくんが好きなわけじゃないよ。いや好きだけど、幼なじみとして」
「そうなのか? 兄貴の前では緊張すると言っていたからそういう意味かと」
「だってハルくんって王子様! って感じじゃない」
「好きとは違うのか」
「憧れのお兄ちゃんって感じかな」
青天の霹靂だった。ずっとつかさの想い人は惺久だと思っていたのに、何十年も勘違いしていたとは思わなかった。
「知らなかった……」
「それとずっとさん付けなのは、何となく呼びづらかったの。子どもの頃とは違うし」
「兄貴はハルくんじゃないか」
「ハルくんはなんか呼びやすいの。ねぇ昨日から思ってたけど、もしかして拗ねてる?」
頼久は黙りこくる。それをつかさは肯定と受け取ったらしい。
「え、ほんとに?」
「……黙秘権を行使する」
そう言って頼久は味噌汁をすする。
「あははっ、何それ!」
つかさは声をあげて笑った。こんな風に笑う姿を見たのは再会してから初めてだった。
ひとしきり笑ったのち、つかさは言った。
「これからは頼くんって呼ぶね」