悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
「ああ、よかった。やっと言えた」
つかさはホッと安堵した笑みをこぼす。
「もしかして、ずっと気にしていたのか」
「まあ……喧嘩別れみたいになっちゃってたし」
「つかさを怒らせて嫌われたと思っていたが、そうじゃなかったんだな」
「違うよ! 嫌うなんてない!」
つかさは頼久を真っ直ぐ見つめ、真剣な瞳で言った。
「頼くんを嫌ったことなんてないよ。むしろ――」
「むしろ?」
「……ううん、なんでもない。とにかく違うの。ごめんね」
「もういい、それが聞けて良かった」
どうやら十二年もすれ違っていたようだ。
つかさは惺久を好きなわけではなかったし、頼久を嫌っていたわけでもなかった。
「そうか、それなら……何も遠慮する必要はなかったんだな」
「え?」
つかさはきょとんと頼久を見返す。
「いやこちらの話だ」
「うん?」
頼久は首を傾げるつかさを見つめる。
目の前の男から何十年も執着的な恋心を向けられていたなんて、到底想像もしていないという表情だ。
嫌われていなかったにせよ、男として好かれているわけではないのはわかっている。
そこまで自惚れる程愚かではない。
だがもう遠慮しない、今は書類上だけでも夫婦なのだ。
取引から始まった結婚だが、本当の意味でつかさを手に入れる。
強引でもずるくても構わない。もう二度と手離したくない。
メガネの奥の瞳には静かな闘志が宿っていた。